研究室・ゼミ紹介:川津 誠(かわつ まこと)教授

■略歴

 殊更に語るほどの過去などなく、何ほどかの目指すべき未来もない。ただ、今というこの時間をひたすらに「文学」の山に分け入り、「文章」の森に迷い、「言葉」の林を逍遙せんとするのみ…と、こんな人生を送ってきました。たぶん、これからもそんな「今」を重ねていくだろうと思います。
 国文学の(‥当時はそう言いました。もうずいぶん昔‥)大学院の博士課程を出てから、雪深い山国の山形県米沢市にある女子短大に草鞋を脱ぎ、それから縁あって聖心女子大学に拾われました。どんな縁なのか定かではないけれど、都心近くでありながら緑深く閑静なキャンパスに、適度な教員への敬意を失わない学生と共に学べる日々を送る現在の境遇に概ね満足しています。


■業績
◎編著:『火野葦平』作家の自伝57(日本図書センター)
    『原民喜』 作家の自伝71(日本図書センター)
◎論文 「いのちの初夜」論
     三部作「夏の花」論  等

 近代文学(明治以降の文学)の中の、昭和期、ことに戦争前後の時期の文学を主に読んでいます。
 原民喜は広島で原爆に遭い、戦後朝鮮戦争の頃に自殺した何か透明感のある作家(研究でこんな表現をすると叱られますが)です。『夏の花』は彼の代表作。『いのちの初夜』はハンセン病を患って20代半ばに亡くなった北條民雄の作品。この二人の研究を中心に、戦争の時期とその前後を描いた文学に主とした興味はあります。もっとも、大学の講義ではあまり戦争文学の受けは学生さんに良くないので、様々なジャンルの昭和文学が対象になります。様々に読んでいると、様々に興味は湧いてきます。近代の研究者の誰でもそうでしょうが、二葉亭から朝井リョウまで、貪欲に読みあさるものなのです。時には、学生から面白い作家、作品を教えられて目を開かれることもしばしばです。たとえば江國香織とか村山由佳、向田邦子などは、私自身はあまり興味を持っていませんでした。学生の卒論のテーマだったので勉強して、そのおもしろさに目覚めました。共に学ぶ中から、研究も生まれてきます。


■ゼミ紹介

 日本語日本文学科では、卒業論文のテーマと所属ゼミを三年の秋に決めます。専門に進学した二年次と三年前期を通して様々なジャンルを学び、その間にやりたいものをじっくり選んでもらおうと考えるからです。それでも、研究調査をしていくうちに様々に悩みますし、興味の対象が移ったりもします。私たちは、それは当たり前だと考えます。ですから、四年次、どこかの卒論ゼミに所属してから後でも、作家や作品の変更だけでなく、時には別の時代に関わる研究に代えても、それからの時間が研究に十分だと判断すれば、それを認めています。
 というわけで私の卒論ゼミでも、四年になる前の春休み、就職活動の合間に(?)、じっくり時間をかけて作品を読み、テーマを絞り込むようにしてもらっています。内緒でいうと、なんと四年の夏休み前にテーマが変わったりする学生だっているのです。しかし、そういった学生は、時間が足りないかもしれないという自覚を持つせいか、かえって頑張ってくれるようです。
 卒論のテーマは、ですからほぼ何でもあり。興味を持って研究できるものを選ぶことが第一です。例えば、太宰治や川端康成、谷崎潤一郎、宮沢賢治等(主として私のゼミは大正から昭和を対象にしています)文学史の教科書でお目にかかる作家たちばかりでなく、中原中也や金子みすゞといった詩人、村上春樹やよしもとばなな、山田詠美に江國香織、あるいは向田邦子などの現代作家、柏葉幸子、灰谷健次郎などの児童文学、等々、多彩です。むろん、聖心女子大学生らしく遠藤周作や曽野綾子などのキリスト教の問題を描いた作家研究をする学生もいます。これはつまり、近現代文学の多彩さの反映です。また、論文の内容も、作家は何を言いたいのか、テーマは何か、といったことばかりではなく、時代背景を中心に考えてみたり、映画とつなげてみたり、ジェンダーの視座から問題をあぶり出したりと、様々です。これもまた、近現代文学の、研究の方法の多彩さの反映なのです。 
 1頁1000字で20頁以上という量のまとまった論文を書くことは、ほとんどの学生にとって生涯で二度とない経験でしょう。ですから、苦労しいしい、しかし愉しく(けして楽にではなく)論文に取り組み、仕上げてほしいと思っています。これが、川津ゼミの最大のテーマです。ですから、そのためには時に途中経過の発表をしてもらったり、レポートを提出してもらったりと、それなりの努力は要求します。それもまた、愉しみの内だ、と勝手に思っているのですが…。


■学生によるゼミ紹介
 川津ゼミで卒論を書いた学生にゼミについて書いてもらいました。多少褒め過ぎかと思いますが、そのまま載せることにします。ゼミの雰囲気を感じていただければ・・・。

◎的場さん 2009年3月卒業
(卒論の感想) 私は、『太宰治小説における冒頭の魅力』について研究しました。4年生になった時にまだテーマが決まっていないくらいで、卒論を書き上げる自信が全くありませんでした。また、日本語教員課程を履修していたため、教育実習の準備で一年を通して、特に後期はとても忙しかったです。そんな中で卒論を書き上げて、それほど大変ではなかったというのが、率直な感想です。川津先生のゼミでは、それぞれのペースを尊重してくださり、みなさん必ず書けますよ、と励ましてくださっていたのが、非常に印象的でした。期限が近付いてくるとプレッシャーなどありましたが、安心して自分のペースで仕上げることができたと感じています。
 前期の間は二週間に一つレポートが課せられ、多様な文章を書く練習をすることができました。私は当初、太宰治の『斜陽』と太田静子の『斜陽日記』の比較をテーマにする予定でした。しかし、夏休みにテーマを深めて考えているうちに、あまりにも先行研究が多いので、独自の論を展開する自信が無くなってしまいました。夏休み中、先生がメールで対応してくださり、多角的なアドバイスをいただくことで、自分の軸ができたと思います。後期のゼミでは、書き方など質問を受けて丁寧に説明してくださったり、書き上げたところまで添削していただいたりする時間となりました。
 私の学年の川津ゼミでは、ゼミより飲み会に集まる人数が多いほど飲み好きが多く、お酒を交えながら先生と卒論以外のこともたくさんお話しさせていただき、幾度となく楽しい時間を過ごすことができました。卒業してからもみんなで集まったほどでした。
 期限や厳しい課題に縛られず、自分のペースで卒論を仕上げたい方におすすめのゼミです。卒論は自分の好きなこと興味のあることを深めて研究できるので、苦労どころか楽しい作業になると思います。
◎岩崎さん 2007年3月卒業
(卒論の感想) 山本周五郎の女性の描き方を分析しましたが、まず多くの作品からの的の絞り方に苦労しました。結果的に「女性」「妻」に重点を置いて書かれた『日本婦道記』シリーズを研究しました。特徴のまとめ方に納得がいかず、提出の2週間前くらいにもう一度一から分析し、やり直して大変な思いもしましたが、一つ一つの作品を読み込む事で、女性達の姿から、また周五郎自身から、多くのメッセージやこれからの人生にも繋がる大切な事まで色々と教わったような気がします。
 シリーズが掲載された太平洋戦争中の『婦人倶楽部』という貴重な資料を実際に見られた事も、とても面白かったです。小説以外にも雑誌内の色々な記事を見ましたが、何気ない記事からも、当時の日本人の生活がリアルに感じ取れました。これから戦中の女性像を分析し、『日本婦道記』の女性像と比較しました。
 研究自体はとても楽しく、力を尽くしたので、満足のいく論文に仕上げられたと思います。
◎高橋さん 2006年3月卒業
 私たちのゼミでは、前期は先生からのレポート課題が二週間に一度出され、論文の書き方を練習します。課題は川端康成の「掌の小説」に収録されている『雨傘』について、梶井基次郎の『檸檬』についてなどでした。近代の日本文学作品に関するレポートのほかにも、「読書の効能について」が課題となったこともあり、文学という範疇で多岐にわたります。先生は学生ひとりひとりのレポートを添削して下さいます。論文にふさわしい文の書き方などを丁寧に見てくださり、私たちは論の展開の仕方を確実に身につけることができます。 
 夏休みを経た後期からは、各自いよいよ本格的に卒業論文の制作に取り掛かります。授業では、より具体的に論文の書き方を指導していただきます。例えば、文献の引用の仕方、卒論の要旨の書き方などです。そのほかにも学生同士で情報を共有したり、疑問点を解決したりと、皆で和気藹々ゼミの時間を過ごすので、決して孤独な作業をしていると感じることはありません。
 また、常に川津研究室はオープンなので疑問があればいつでも先生が質問に答えてくださる体制が整っており、非常に心強く、安心して論文を制作することができます。 また先生や学生同士の親睦を深めるために、食事会も開かれます。今年は、4月と卒業論文提出が終わってからの12月、年が明けての1月に行いました。 多くの学生にとって、卒業論文の制作は一生に一度のまとまった文章を書く機会となるでしょう。それは決して楽なものであるとはいえません。しかし、先生の丁寧な指導や仲間との交流があれば、最後まで諦めることなく頑張りぬくことができます。川津ゼミにはそれらがすべて存在し、一年間充実した時を過ごすことができます。
◎川島さん 2006年3月卒業

 川津ゼミは、週1回のペースで卒業論文をより良いものにするために行われます。 前期は様々な小説やテーマに添って、2週間に1回2000字程度のレポートを提出します。この「書く作業」は、卒業論文を書くための練習であり、文章を書く事への苦手意識を取り除いてくれます。
 後期には、いよいよ自分の卒業論文をまとめていきます。とはいっても、ゼミでは堅い雰囲気はなく、毎回アットホームに進められ、先生や友人と会話をしに行くと言った感じです。お互いどのような事をしているのか、進み具合や疑問などを一緒に解消します。そうして、自然と友人から刺激をもらう事になります。
 ゼミの特徴は、自らの意思が尊重されるところにあると思います。自らの意思が尊重されるという事は、自ら動かなければ何も始まらないという事ですが、これにより責任感を培うことができます。
 川津先生は、1番に生徒の意向を受け入れてくれます。些細な疑問や不安でも、親身になって一緒に考えてくれます。ですので、このゼミは自分のやりたい事をやらせてもらえるゼミを探している人にはピッタリだと思います。