文書末へ

  他分野は以下を参照                           

 

近代文学(Verson:2.02)

 

  近・現代の文学研究は、作品を読み、その作品世界について考える、
いわゆる「作品研究」と、作家について調べ、その作家がどのような文
学世界を作り上げたかを考える「作家研究」とが、その中心にある。
  加えて近年では、次のような新しいアプローチ方法も盛んに試みられ
ている。すなわち、文学が作られ、メディアによって媒介され、読まれる
までの過程と仕組みを明らかにしつつ、文学をその時代・社会のあらゆ
る文化現象とのつながりにおいて考えていこうとする「文化研究」。また、
〈男性/女性〉という社会的・文化的に作られた性差(ジェンダー)が、
作家や作品、文学現象の上にどのように現れているか、問題意識をも
って考えていく「フェミニズム文学批評」、などである。
  同時に近年では、文学研究の対象とされる作家・作品の範囲も広が
り、探偵小説等の大衆文学や、児童文学、旧植民地で書かれた文学な
ど、従来の文学史では顧みられることの少なかった文学、さらには映画・
アニメーション等が論じられる機会も増えてきた。
  どのような研究方法・研究対象を選ぶにせよ、「文学史」に関する知
識は作業や考察のための基礎情報として欠かせない。また、作品を正
確に読むために「注釈」も欠かせない。

  それでは、以上に「 」をつけたトピックについて、これから案内してい
こう。その前にまず、近・現代に関わる基本的な文学事典を紹介する。

近・現代に関わる文学事典】
  作家などの人名や、作品名、雑誌名、文学グループ名などに初めて
出会い、それについて知りたい時には、次のような文学事典を引いて
みよう。数種類あわせて引けば、基本的な情報が得られるはずだ。
  ◯『日本近代文学大事典』全6冊 1977 日本近代文学館・講談社
   [最も情報量の多い近代文学事典。まず最終巻の索引を引くこと
     を勧める。]
  ◯『日本現代詩辞典』1986 桜楓社
  ◯『現代短歌大事典』2004 三省堂
  ◯『現代俳句大事典』2005 三省堂
  ◯『日本児童文学大事典』全3冊 1993 大阪国際児童文学館・大日本図書
  ◯『世界日本キリスト教文学事典』1994 教文社
  ◯『日本女性文学大事典』2006 日本図書センター
             
作品研究】
  ある作品について、その梗概や成立、時代背景、これまでの評価や
研究状況などを知りたい時には、次の事典が参考になる。
  ◯『日本文芸鑑賞事典』1988 ぎょうせい
  ◯『日本現代文学大事典(作品編)』1994 明治書院
  ◯『日本現代小説大事典』2004 明治書院
 
  以上は総合的な作品事典だが、次のような個人事典にも作品情報
は収められている。 
  ◯『樋口一葉事典』1996 おうふう
  ◯『川端康成全作品研究事典』1998 勉誠出版
  ◯『村上春樹作品研究事典』2001 鼎書房

  このほか、夏目漱石、島崎藤村、石川啄木、芥川龍之介、太宰治、
三島由紀夫などにこうした個人事典があり、作家研究にも役立つ。た
だし、執筆者の主観を強く押し出した記述も含まれるから、自分なりの
批評眼をもって読むことが必要。
  では、こうした事典に載っていない作品を研究しようとする場合は、
どうしたらよいか。その作品・作家について書かれた論文を探して読
み(後述の「文献の検索方法」参照)、論じるべき問題点を見出してゆ
く、という作業を行うことになる。
  作品研究で最も大切なのは、作品そのものの精読である。取り上げ
る1作品に限らず、同じ作家の他の作品を知った上でその作品の意味
を考える、あるいは、同時代の他の作家の作品を知った上でその作品
の独自性を見出そうとすることも、大切な作業である。オリジナリティあ
る論は、こうした作品との直接対話から生まれる。参考文献はたしかに
多くのことを教えてくれるが、あくまでも「参考」文献であることを忘れて
はならない。
                      
作家研究】
 作家研究がめざすのは、一人の作家が作り上げた文学世界、また
彼・彼女の作家としての人物像・人生像を、論者なりの解釈をもって
描き出すことである。まず、その作家についてなされてきた先行研究
を把握するところから出発しよう。次のような文献が役に立つ。
  ○『明治 大正 昭和 作家研究大事典』1992 桜楓社
  ○『大江からばななまで−現代文学研究案内』1997 日外アソシエーツ
   [上の2書は、代表的作家について、平成初頭までの研究状況の
    解説、問題の指摘を行い、基本的な論文をあげており、取り組
    みの方向性を示してくれる。]
  ○『近代文学研究叢書』シリーズ 1956〜 昭和女子大学
   [近代の多くの作家について、著作リスト・文献リスト等の基礎情
    報を収める。続刊中。]
  ○『作家の自伝』シリーズ 1997〜 日本図書センター

  以上に加え、『明治文学全集』(1965 筑摩書房)などの文学全集の
巻末に付された「年譜」や参考文献リストが参考になる。なお、個人全
集の各巻に添付された「月報」にも、掘り出し物の情報が含まれている
ことがあるので、目配りしたい。

  ところで、特定の作家について主要な研究を集めた便利な論文集も
存在する。たとえば
  ○『宮沢賢治研究資料集成』全23冊 1990 日本図書センター
  ○『芥川龍之介研究資料集成』全11冊 1993 日本図書センター
  ○『太宰治論集(作家論篇)』全10冊 1994 ゆまに書房
などである。しかし言うまでもなく、こういった論文集が編まれる作家は
ほんの一部だ。その他の作家、とりわけ先行研究がまだ少ない現代作
家を取り上げる場合には、研究論文はもちろんのこと、新聞・雑誌に載
った書評やインタビュー等の記事を探してみよう(後述の「文献の検索
方法」参照)。意外に多くの情報が得られるはずだ。
 
  作家研究で大切なことは、先行研究の中にすでに示されている作家
像や解釈に対し、いかに新しいことを付け加えるか、これまでと違った
作家イメージを作り上げることができるか、である。その出発点は、あく
までもその作家の作品を幅広く、かつ深く読むことにある。作家研究と
作品研究は別々のものではなく、密接に関わっている。
 
文化研究、フェミニズム文学批評】
  ここでは冒頭で触れた文学への新しいアプローチ方法、「文化研究」
「フェミニズム文学批評」に関する参考文献を紹介する。これらの方法
に共通するのは、文学を一般社会から独立した閉じた芸術世界と見る
のではなく、時代・社会の文化現象の一部と捉え、それらと文学との関
わりを問題意識をもって明らかにしていこうとする姿勢である。問題意
識をもって、とは、すでにある文学観や文学史を積極的に疑い、異なる
立場から新しく読み替えていこうとする姿勢をさす。 
  このように過去の研究を踏まえつつそれに挑戦していくには、近・現
代の時代・社会・文化について、自ら広く資料に当たり、自分の眼と頭
でそれらを考えていくことが不可欠だ。その手引きとなるのが次のよう
な図書である。
  ○『大衆文化事典』1991 弘文堂
  ○『明治ニュース事典』全9冊 1983〜 毎日コミュニケーションズ
   [大正篇、昭和篇もある。各時代の代表的な社会的事件について
    知るのに便利。調べたい出来事の日時が解らず、直接新聞にあ
    たることができない時にも役立つ。]
  ○『明治文化全集』全32冊 1927〜 日本評論社
  ○『明治大正風俗語典』1979 角川選書
  ○『昭和2万日の全記録』全19冊 1989〜 講談社
  ○『昭和生活文化年代記』全5冊 1991〜 TOTO出版
  ○『日録20世紀』シリーズ 1997〜 講談社

  また、過去のある時期の文学観や、作家・作品に与えられたこれまで
の評価を知るには、近代の代表的な文学評論を集めた次のシリーズが
参考になる。
  ○『近代文学評論大系』全10冊 1971 角川書店

  文化研究(文学領域)の概説的入門書は現在のところまだなく、個別
の研究論文を参考にしてもらうしかない。フェミニズム文学批評・女性文
学研究には、次の入門書がある。
  ○渡邊澄子編『女性文学を学ぶ人のために』2000 世界思想社 
 
文学史】
  どのような研究方法・対象を選ぶにせよ、文学研究の基本中の基本
として欠かせないものは「文学史」、そして次項に述べる「注釈」である。
  文学史の知識は、研究のスタートに当たって読むべき作品や参考文
献を選ぶ際にも、研究の締めくくりに当たって結論を導き出す際にも欠
かせない、基本的な情報である。さらに進んで、新しい研究成果を取り
込んで既成の文学を組み立てなおす試みも、やりがいのある課題とい
えるだろう。近・現代の文学史については次のような文献がある。
  ○三好行雄編『増訂版 日本文学全史5・6』1990 學燈社
  ○岩淵宏子ほか編著『はじめて学ぶ日本女性文学史 近現代編』
      2005 ミネルヴァ書房
  ○『講座 昭和文学史』全5冊 1988 有精堂
  ○浅井清ほか編『研究資料 現代日本文学』全7冊 1980〜 明治書院 
   ○伊藤整・瀬沼茂樹『日本文壇史』全24冊 1953〜 講談社
      (現在、講談社文芸文庫)
  ○柄谷行人編『近代日本の批評』全3冊1990〜 福武書店

  近代から現代に至る、もっといえば、万葉の時代から平成に至るこ
の国の文学の、言葉と文字によって表現されてきたものの歴史を知る
ことは、近代文学研究の必須条件である。その延長上に我々がいる
のだと認識することが、近代文学を考える意味の一つなのだから。

注釈】
  注釈とは、今日と異なる制度や風俗・習慣などを明らかにし、説明
することである。作品を正確に理解するために不可欠の作業であり、
読者であるわたしたちは、作品中の一言一句たりとわからないことの
ないよう、調べる必要がある。その作品にすでに注釈がある場合は、
まずそれを参照しよう。最も手近なものとして、全集の巻末や、文庫
本の巻末に付されている「注」がある。その上で、さらに詳しい注釈
が次のシリーズの中に入っていないか、探してみよう。
  ○『新日本古典文学大系 明治編』全30冊 2001〜 岩波書店
  ○『日本近代文学大系』全61冊 1970〜 角川書店
  ○『近代文学注釈大系』全9冊 1963 〜 有精堂

  ただし、注釈に完璧はありえない。これら既存の注釈の中にも必ず
修正の余地がある。修正できれば研究上の新しい達成となる。そうし
た修正をめざして、また、そもそも注釈が存在しない作品を取り上げ
る場合にも、「総説」「文化研究、フェミニズム文学批評」の項に挙げ
た事典等を駆使して、自らの手で注釈を行っていこう。じつは、こうし
た注釈作業の中で、作品を論じるための新しい視点を見出すことが
非常に多いのだ。
  たとえば、漱石の『こころ』の先生が下宿するのは戦争未亡人の家
である。これが明治の日清戦争後のことだとすれば、当時、戦後問題
の一つとして、戦争で男手を失った家庭が社会問題であったことが調
べられる。そうすると、『こころ』が、先生とKとお嬢さん、それぞれ「家」
に問題を抱えた人間たちの物語であったことが見えてくるはずだ。

文献の検索方法】             
  以上に挙げてきた文学事典、作家・作品事典等には、残念ながら
最新の情報が欠けている。また、以上の事典類がカバーしていない
作家・作品を研究する場合ももちろんあるだろう。そのような場合には、
インターネットを活用して文献を検索するとよい。
  ○国立国会図書館www.ndl.go.jp
   [NDL-OPACにより、単行本化された研究書、雑誌に掲載された
    研究論文、新聞・雑誌等の記事などを検索することができる。]
  ○国文学研究資料館www.nijl.ac.jp
   [各種データベースが利用可能だが、とくに「国文学論文目録デ
    ータベース」は雑誌掲載論文を網羅的に探す際の強い味方。
    書籍版は『国文学年鑑』として刊行されている。]
  ○大宅壮一文庫www.oya-bunko.or.jp
   [文学に限らず、広い領域の雑誌記事を検索できる。書籍版、
    CD-ROM版もある。]
  以上のほか、インターネットの各種検索エンジンも利用できる。文献
検索に限らず、ネット上では多くの情報が入手可能である。だが、現在
のところ確実性の面で玉石混淆と言わざるをえない。信頼するに足る
情報かどうか、よく吟味することが大切である。
  上に挙げた図書館・文庫に、日本近代文学館(www.bungakukan.or.jp

を加えると、近代文学研究に役立つ主要な図書館が出揃う。
実際に出かけて行き、文献を閲覧したり、複写しよう。ただし、本学図
書館や近隣の図書館にある文献は、そこで閲覧・複写することを強く
勧める。上記の図書館にすべてを頼ると、時間と費用がかかりすぎる
ので注意。