聖心女子大学

第5回 ESDスタディツアー
「北インドで難民の人々と共に考える「希望」への道」で
ノーベル平和賞受賞者のダライラマ法王との対話が実現

(2011/12/21掲載) 教育学科・永田佳之

 「難民問題の実際を自分の目で見てみたい」・・・このような学生の声に応え、難民をテーマにしたスタディツアーが2011年8月24日から10日間の日程で実施された。選考を経て選ばれた学生5名と教員2名(筆者=永田と水島尚喜先生)で訪れたのは、インドの首都、デリーと、国連高等難民弁務官(UNHCR)が戦後実施した難民支援事業の中で最も成功したと言われるチベット難民支援の舞台となったダラムサラである。 一行は、首都デリーでM. ガーンディーのゆかりの地や博物館などを訪れた後、車で半日かけて北上し、チベット難民の街といえるダラムサラにある「チベット子ども村学園」に滞在しながら難民問題について学んだ。

 ダラムサラに滞在中、ノーベル平和賞受賞者のダライ・ラマ法王と対話する機会にも恵まれた。かねてより筆者は法王に学生を出会わせたいと願ってきたが、東日本大震災後、かつて抱いたことのない〈深い問い〉の中を生きている学生を目の当たりにし、この想いはよりいっそう強くなったと言える。ダライラマ法王は、〈答えのない問い〉を抱く若者に、決して即応するのではなく、答えを自分で見出せるように導く力を持っていると思うからである。学生たちは一か月ほどかけて準備した質問を直接投げかけ、1時間半近くもの間、法王は丁寧に一つひとつの質問に応えて下さった。以下に参加した学生の感想を紹介したい。


PDF版
ESDスタディーツアー報告書
「北インドで難民の人々と共に考える『希望』への道」


スケジュール概要

 日時:2011年8月24日〜9月2日
 場所:インド(デリー・ダラムサラ)
 参加者数:教員2名、学部生5名
 (教育2名、国際交流1名、基礎課程1名、学部研究生1名、)

 

< 8月24日:旅の始まり、インド >

   はじめて降り立つインド。
   たくさんの車と、人々の熱気に圧倒されました。

 

< 8月25日:インド建国の父、ガーンディーの人生をたどる >

非暴力の精神で、一貫して平和的にインド建国へと向かっていったガーンディー。デリーにはそのガーンディーの人生を感じることのできる史跡や記念館が数多く在り、今でも多くの観光客がここに訪れます。


ガーンディーが喪に服した場所

ガーンディー記念館にて

足跡の終わるところで暗殺された

 

< 8月26日:チベット仏教の息づく街、ダラムサラへ >

デリーからダラムサラへ移動です。ダラムサラに近づくにつれて外の景色が変わり始め、これから始まるダラムサラでの日々への期待感でいっぱいになりました。

 

< 8月27日:難民・仏教・文化 >

チベットの文化が今でも鮮やかに生きているダラムサラでは、街のいたるところでチベット仏教僧や様々な文化に触れることができます。難民としてやってきた彼らが、チベット文化を守り続けているということに驚きました。この日はチベット難民を受け入れるレセプションセンター(難民受け入れセンター)を訪問し、代表の方からチベット難民の現状や問題点などを伺いました。難民問題が現在進行形であることを、あらためて認識しました。


難民受け入れセンター
 

チベット文化を現在に伝える拠点:チベット文化村

仏教僧の「問答」の修業を見学
 

 

< 8月28日:チベット難民のための学校、チベット子ども村 >

チベット子ども村(Tibetan Children’s Village)は、ヒマラヤを超えてやってくる子どもたちのために創られた学校です。子どもたちの多くは親元を離れてやってくるため、「ホーム」と呼ばれる寮で母親代わりのマザーの愛情を受けながら学校に通います。


学校の理念“Others before self”

バスケットボールで遊ぶ生徒たち

敷地内にあるお寺からの眺め

 

< 8月29日:幼稚園訪問と、ダライ・ラマ法王への謁見 >

チベット子ども村の中にある幼稚園を訪問。ここではモンテッソーリ教育が展開されており、子どもたち一人ひとりが学びを深めている様子が印象的でした。午後は、チベット仏教最高指導者でノーベル平和賞受賞者のダライ・ラマ法王に謁見しました。法王は1時間以上の時間を使って私たちの質問に耳を傾けてくださいました。とても豊かな時間を過ごすことができました。


幼稚園の中の風景

 

 

 

法王との対話の記録

私たち参加学生は、法王との謁見のためにいくつかの質問を用意しました。法王への質問は下記の通りです。

Q1 東日本大震災後、辛い思いをしている人々の身代わりになることはできません。
  同じ苦しみを共有していない他者がその人のためにできることは何ですか?
Q2 法王がもし学校の校長先生になるとしたら、どんな教育をしますか?
Q3 法王は20年前にブラジルで開催された地球サミット関連の国際会議で<普遍的責任>という概念を提示されました。来年再び開催される地球サミットに基調講演者としてもし招かれたら、世界の人々にどんなメッセージを届けますか?
Q4 世界平和のためには相互理解が不可欠であると言います。でもこちらが他者を理解しようと努めても、相手がこちらに無関心であり耳を傾けない場合はどうしたらよいのでしょうか?
Q5 表面的でないボランタリズムとは何でしょうか?

※上の質問に対する法王の答えについては本スタディツアー報告書『北インドで難民の人々と共に考える希望への道』をご覧ください。
法王は予想以上に多くの時間を割いてくださり、その質問ひとつひとつに丁寧に答えてくださいました。法王からいただいたメッセージを忘れず、心に置いておきたいと思いました。

 

< 8月30日:高校訪問 >

チベット子ども村の中にある高校を訪問しました。日本の高校と同じく、高校生になると生徒自身の興味関心に応じた授業選択をするようになります。集中して授業に取り組んでいる様子が印象的でした。また、インドに散在するチベット子ども村全部を統括している総長先生、そして教育長先生のお話を伺うことができました。長年難民への教育に携わってこられた先生方に「教育とは」という本質的な質問ができ、深い学びをいただきました。

 
 チベット子ども村の先生方。
 子どもたちへの愛情へ溢れているのが、その表情や言葉から伺える。

 

< 8月31日:小学校・中学校訪問と、ダラムサラとのお別れ >

今日でダラムサラを去り、デリーに戻ります。チベット子ども村で過ごす最後の日には、小学校と中学校を訪問しました。小学校では英語の授業を見学しました。先生が全身をつかってエネルギッシュな授業を展開し、それに応えて子どもたちが元気に声を出している様子がとても印象的でした。中学生の校舎に移動すると「問答」の授業が行われていました。チベット僧が修業で行う問答を授業の一環で行っています。問答は本質を見極めるために行われる訓練。基本的に2人1組で片方が問題をだし、もう片方がそれに応える形で進んでいきます。問答を行っているときの熱気や声がいたるところに響き渡っていました。

チベット子ども村で過ごす最後の日、ということで、日本人学生主催の「感謝の会」を開き、先生方や生徒の方々に参加していただきました。インドで感じたこと学んだことを発表したほか「世界に一つだけの花」を英語で歌ったり、日本から持ってきた小豆や白玉粉をつかって作ったぜんざいを召し上がっていただきました。直接生徒のみなさんと話すことのできた、とても有意義な時間でした。


ぜんざいを作っている様子

インドでの学びを発表しています

集合写真

 

< 9月2日 >

9月1日にインドを出発し、翌日2日に全員が無事東京に到着しました。この旅で私たちが目標にしていたことがあります。それは、日本から持ち込んだゴミをインドに置いてこない、というものです。これを“サスティナブル目標”と名付けて学生全員で実行しました。持続可能な未来をつくりたいと願うわたしたちですが、実生活において持続不可能な事象に関わっていることは否めません。その一つがゴミです。空港で持ち帰ったゴミを並べてみると、そのほとんどがプラスチック製品であること、つまり土に還らないものであることに驚きました。持続可能な未来は、まず自分たちが変わることから。ゴミを通して、そのことを学ぶことができたように思います。


参加学生感想(1)

 ダライ・ラマ14世とお話をさせていただいて心に残った一節がある。“You have rebuilt from ashes. Forget tragedy and look forward.”このメッセージは震災後の日本に向けて下さったものである。私はその一節をチベット亡命政府という体現された実例に触れながらさらなる重みをもって受け取った。“民族の浄化”という危機に瀕していながらも、人々が慈悲の心と何があってもくじけない心の強靭さとを持ち合わせてそのメッセージを実践している奇跡の世界がそこにはあった。
 「未来のチベットは僕たちにかかっている。だからもっと勉強して、将来チベットの役に立ちたいんだ。」まだ幼い頃に祖国を追われて亡命してきた高校生が流暢な英語で私に向かってそう言った。その時の自分の気持ちを思い出すとあっけにとられた、という表現が一番ふさわしいと言えるだろう。あとから襲ってくるその高校生への畏敬の念と自分の未熟さへの焦燥感、そして虚無感にただただすごいね、と言うことしかできなかった。
 国を失う。日本で毎日何の不自由もなく暮らしている私には想像がつかないものである。これから経験することもないであろう。チベットという“国”は1951年に中国に占領されて以来、現在もなお支配下におかれている。経済発展のため、と名目上の支援を受けているその“国”では文化的、宗教的な財産はほとんど破壊され、中国による乱開発が進められている。学校では中国語が強要され、ギャンブルや喫煙、売春が子どもたちの間でも蔓延している。そんな状況を打破してしっかりとした教育を受けさせるため、命がけの旅であることを分かっていながらも親たちは自分の子どもをダライ・ラマ14世の樹立した亡命政府のもとに送り込んでいる。教育は彼らにとって自分たちのアイデンティティを継承し、希望を次の世代に繋ぐ唯一の方法なのだ。だからこそ教育の現場に託されたものは大きい。
 私たちが訪れたTCV(TibetanChildren’sVillages)は幼、小、中、高一貫の全寮制の学校で、16,000人にものぼる生徒一人一人にきめ細かな対応がされていた。生徒たちは“マザー”と呼ばれる寮母を本物の親であるかのように慕い、先生との間には揺るぎない信頼関係が生まれていた。その様子は授業を見れば一目瞭然である。教科書に頼らない独自の教え方に沿って進んでいく授業に、生徒たちはキラキラとした目でのぞんでいた。中でも最も印象に残っているのは問答という授業である。ディベートのような形式がとられるこの授業では相手の考えを論破することが求められるため、生徒たちにとっては今まで学んできたことを実践の形で発揮し、身に付ける良い機会となっていた。過熱する論争に的確なアドバイスを送る先生と主体的に授業を作り上げていく生徒たち・・・両者が一心同体に学ぶ現場に“希望の営み”である学校教育のあるべき姿を見た。そして、この活力あふれる教育現場こそがまさに法王のメッセージが体現されている世界なのであった。

(基礎課程演習 1年)


参加学生感想(2)

 インドは今、発展の真只中にあり、環境や社会などあらゆる面における持続可能性を秘めている宝箱のようでした。10日間、そんなインドを旅する中でたくさんのものを見て、聴いて、触れ、多くの方に出会いました。私はこの旅を通して強く印象に残ったことが2つあります。
 1つ目はインド独立の父といわれるマハトマ・ガーンディーです。私たちはデリーでガーンディー博物館や記念公園を訪れました。博物館には数多くの写真と共に彼が最期に着ていた服などが展示してありました。さらにそこにはたくさんの言葉が添えられており、中でも特に印象深かった言葉が“My life is my message.”という言葉です。彼は“塩の行進”をしたり、自らが断食を繰り返し続けることで民衆に訴え続けました。この言葉どおり、ガーンディーは自分の人生をもって民衆をインドの独立へと導いたのです。私たちが施設などを見学している最中、地元の人々がたくさん訪れお祈りなどをしていました。ガーンディーが亡くなって70年以上経った現在でも、彼がインド国民にとって心の拠り所となっていることを感じました。ガーンディーは当時の人々だけでなく、今を生きるインド国民の心の中でも生き続けていました。ガーンディーに限ることなく、自分が死んで何十年経っても、自分のことが人々の記憶に残っているということは、本当に素敵なことだと思います。生きがいや人生の目標は人それぞれですが、私も、自分がこの世を去った後ずっと、私と出会った人々の記憶に残るような道を歩みたいと思いました。
 2つ目はダラムサラで触れあった方々です。もちろんダライ・ラマ法王とお会いし、対談することができたことは文章では綴ることができないくらいの出来事です。さらに私はダラムサラで宿泊したチョノールハウスの方やチベット子ども村(TCV)で出会った先生方・子どもたちがとても印象に残りました。チョノールハウスで働く人の中にはチベット子ども村を卒業した方もいました。とても気さくなお兄さんや、私たちの世話をしてくださったお姉さんたちがいて、まるで一つの家族のようでした。チベット子ども村でも、大きな一家族をみているようでした。たくさんの幼い子どもたち、ちょっぴり大きな上級生のお姉さんやお兄さん、元気でエネルギッシュな先生たち、同じ境遇や想いを抱いているからこそのコミュニティがありました。特に印象的だったのは授業風景です。初等部から高等部まで見学させていただきました。どの授業も勢いのある授業ばかりで、教材や教具(例えば給食のゴミとしてでた牛乳パックを単語カードに再利用)がとても工夫されていました。先生と生徒の声がリズミカルに響き渡り、真剣で真面目な授業なのですが、本当にとても楽しい授業ばかりでした。チベット子ども村では子どもも大人も分け隔てなく一人ひとりが深い愛情をもって、みんながそれぞれに愛情を分け合い、助け合って生活していました。その空間の中で人生の一時を過ごせたことを心から幸せだと思います。
 今回のスタディーツアーを通して、たくさんの人と新しい出会いがありました。人に出会うということは、縁やタイミングなどもあると思います。このツアーに参加し、デリーやダラムサラを訪れ、本当に恵まれた幸せな時間を過ごすことができました。この旅で出会ったすべての方々に感謝したいと思います。

(国際交流専攻 3年)


インド写真館


インドの街並み
 

難民受け入れセンター
文字の練習をしているノート

ダラムサラにて
 


チベット文化村
 

ナムギャル寺にて
(法王公邸に隣接したお寺)

チベット子ども村にて
 


中学1年生の問答の授業を見学

小学校の英語の授業

中学3年生の問答の授業


感謝の会にて日本からのお土産を。

生徒のみなさんにもお土産を。

感謝の会会場にかけられた法王の写真

(下里 祐美子)


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