聖心女子大学の奥行きを知る
研究者として横顔をご紹介するとともに、研究の意義や楽しさを語ってもらいました。聖心女子大学の魅力をより深く知るために役立てていただきたいと願っています。
研究テーマ | : | 家庭科教育、生活科教育、衣住環境評価学 |
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著書 | : | 日本家政学会被服衛生学部会(編)『アパレルと健康−基礎から進化する衣服まで』 「2.4.2暑熱対策」(分担執筆) 井上書院、2012年 室内環境学会(編)『室内環境学概論』「6-2 環境デザインと室内環境「知的生産性」」(分担執筆)東京電機大学出版局、2010年 空気調和・衛生工学会(編)『空気調和・衛生工学便覧』(第14版)計画・施工・維持管理編「第24章 1.4プロダクティビティ」(分担執筆)丸善、 2010年 建築環境・省エネルギー機構(編)『建築と知的生産性−知恵を生む建築』「2-1知的生産性にかかわる生理・心理評価」「3-3オフィスにおける知的生産性評価」(分担執筆) テツアドー出版、 2010年 中島利誠(編著)『生活環境論』「第11章 住環境と健康」(分担執筆) 光生館、 2008年 斉藤秀子、呑山委佐子(編著)『快適服の時代』「第2章 環境にかかわる条件とその測定法」「第3章 温熱環境の快適性評価」「第25章 世界の気候と衣服・民族服」おうふう出版(初版・ブレーン出版)(分担執筆)、2006年 |
『看護覚え書 −看護であること看護でないこと』
著者: フロレンス・ナイチンゲール
翻訳:湯槇 ます、薄井 坦子、小玉 香津子、田村 眞 、 小南 吉彦
出版社:現代社
大学時代に「家庭看護学」の授業で出会った本。1860年に出版されたナイチンゲールの著作で、今も読み継がれています。野戦病院で兵士の看護に当たったナイチンゲールは、換気や温度管理を適切に行うことが、人の健康状態に大きな影響を与えることを提言。この本を読んだことをきっかけに、ナイチンゲールが19世紀半ばにして、きちんと統計に基づいてデータを示し衛生環境の改善を図ったことを知り、驚きました。身近な環境の中の問題点を見つけ、有効な手段を科学的に探っていくことの大事さを知った一冊です。
家庭科や生活科の教科教育の講義を受け持つ西原直枝先生は、理系の出身である。専門としているのは、衣服や住まいの環境。それらが人間の健康、安全性や快適性に与える影響を、省エネルギーと関連づけながら研究を続けてきた。
先生の分担執筆した著作。
左から『アパレルと健康−基礎から進化する衣服まで』編集:日本家政学会被服衛生学部会、出版社:井上書院。『建築と知的生産性−知恵を創造する建築』編集:(財)建築環境・省エネルギー機構、出版社:テツアドー出版。『室内環境学概論』編集:室内環境学会、出版社: 東京電機大学出版局。『生活環境論』編著:中島 利誠、出版社:光生館。『快適服の時代−ヒト・衣服・環境25話』編著:斉藤 秀子、 呑山 委佐子、出版社: おうふう出版。
「省エネルギーは、現代の世界的な課題です。夏場なら『エアコンの設定温度を2度上げましょう』と言われてきましたが、それによって働く人の快適性が損なわれていないか、仕事の効率が下がっていないかも検証することが大切です。人間の活動や特性を考えつつ省エネルギーを進めていくことが、持続可能な社会をつくっていくために必要だと思っています」
これを明確にするため、オフィスの温熱環境と働いている人たちの快適性や作業効率との関係を調べることが研究の起点に。「仕事のはかどり具合」という目に見えないものを、どのように測定するのだろうか。
「一例では、電話業務をするコールセンターに調査のご協力をいただきました。コールセンターでは自動的に仕事の履歴をデータとして残していますので、一件のコールに要した時間、一定時間内の処理件数がわかります」
この調査では、室温が1度上がると作業成績が2%落ちるという結果が得られたという。オフィスワーカーたちがどう体感したか、アンケートも採取し、分析する。また、温度や湿度を調整できる実験室内での被験者を用いた実験なども行ってきた。
「知的作業の効率を測定するのは、簡単ではありません。人間は、多少、不快な環境でも我慢してがんばってしまう場合もありますから。そこで、知的作業中にどのくらい努力を要していたか、また疲れたかを検討するため、アンケートだけでなく、新たに、脳血流を測り、客観的に評価する方法を取り入れ、温熱環境が知的作業に影響を与えるという結果を裏づけることができました」
こうした西原先生の研究は、省エネと快適性の両方を備え、生産性を高める建築環境の実現に反映されている。部屋全体を空調するのではなく、人のまわりだけに効率的に空調を行うタスク・アンビエント空調の評価や、空間の作り方でオフィスでのコミュニケーションがどう変化するかなどの評価も行っている。
「いかに省エネに優れた技術が開発されても、使うのは人間。使い勝手がよくなければ性能は活かされません。また、使う側も新たな技術を単に待って消費するだけの受け身の姿勢ではなく、『自分の暮らす環境は、自分たちで良くすることができる』という意識を持つことが大切だと思うのです」
授業で育てた枝豆。落花生や米も育てている。栽培、調理などの実習を通じ、体験しながら学ぶ。
西原先生は、生活者の意識を育てることも家庭科、生活科の役割であると語る。
「たとえば『エネルギーを大切にするべきだ』『健康な食生活を送るべきだ』ということは、だれもが常識として知っています。ですが、“知っている”ということだけに終わらずに、自分の実感を大事にして、それをもとに、よりよい生活環境を自ら作る工夫につなげてほしいと思うのです」
授業では、できる限り実習を取り入れる。「生活科概論」では、枝豆を栽培。大豆から豆腐を作ったり、おからを調理したり。先人の工夫がどうあったかを総合的に教えている。
「衣・食・住などの生活は、生きる基本。生活の大切さやおもしろさを伝えること、自然に触れて五感で感じること。さらに、科学的なものの見方を育てることも狙いです。科学的な見方や考え方を身につけると、いろいろな問題の解決に役立つこともあるからです。理系科目は苦手という人でも、実は日常の中でたくさんの科学に触れていることに気づいたら、苦手意識はなくなるのではないかと思っています」