聖心女子大学の奥行きを知る
研究者として横顔をご紹介するとともに、研究の意義や楽しさを語ってもらいました。聖心女子大学の魅力をより深く知るために役立てていただきたいと願っています。
研究テーマ | : | 哲学、宗教学。特に古代末期のキリスト教思想とヘレニズム思想の影響関係を中心に研究。 |
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著書 | : | 櫻井義秀、平藤喜久子編『よくわかる宗教学』(共著)ミネルヴァ書房、松村和夫、平藤喜久子、山田仁史編『神の文化史事典』(共著)白水社 |
『アウグスティヌス――「心」の哲学者』(岩波新書)
著者:出村和彦
出版社:岩波新書
4世紀末から5世紀初頭に活躍したキリスト教思想家アウグスティヌスは、新プラトン主義哲学とキリスト教思想を総合した人物として知られ、後の西欧中世世界に多大な影響を与えました。彼は、新プラトン主義哲学やキリスト教以外にも、当時のさまざまな哲学思想、宗教思想に触れながら自らの思索を形作っていった人です。本書はそうしたアウグスティヌスの心の動きを追いつつ、その宗教的・哲学的思想に迫った、最良の入門書です。
『聖と俗―宗教的なるものの本質について』(叢書・ウニベルシタス)
著者:ミルチャ・エリアーデ
訳者:風間敏夫
出版社:法政大学出版局
「聖なるもの」と「俗なるもの」はしばしば対立的に語られますが、この本の中でエリアーデは「完全に俗なる」人間は存在しないと強調しています。宗教的儀礼は、原初の時(それは世界の創造の瞬間であったり、人間と神々が幸福な関係性を築いていた理想的な時であったりするのですが)の象徴的な再現であり、神話は人間の行動に意味を与え、またそのあるべき在り方、模範的な在り方を明らかにするという彼の主張は非常に深いものであり、宗教や神話、人間について改めて考える良い機会になると思います。
『赤と黒』(岩波文庫)
著者:スタンダール
訳者:桑原武夫、生島遼一
出版社:岩波書店
古典的な名作は、多くの人が認めたからこそ現代にまで読み継がれてきました。学生時代のうちに、ぜひ触れてほしいと思います。私自身、大学時代に本作を読み、魅力ある主人公、ジュリアン・ソレルに引きつけられました。彼の野心に共感することもあれば、時にはその行動がまったく理解できないこともあり、その理由を考えることも良い機会になります。小説を通して、さまざまな事態や多様な登場人物に出会い、「好き」な理由のみならず、「嫌い」な理由、面白いと思えない理由を考えてみるのもおすすめです。自分で考えることが、哲学的な思考の第一歩になるのではないでしょうか。
山田庄太郎先生の専門分野は、哲学と宗教学。高校生にとっては、縁遠い分野であるかもしれない。実際、若き日の山田先生にとってもそうだったのだが、思い掛けないことからこの2つに接近するきっかけを見いだしたのである。
「大学に入った時点では、歴史に興味を持っていたのですが、ある時、自分が本当に学びたいのはそれではないような気がしたのです。掘り下げて考えてみると、歴史上の出来事よりも、その背景にある人々のものの考え方、つまり『思想史』を知りたいのだと気付いたのです。」
そこで、山田先生は高校の授業などで接した哲学者の本を手に取るようになったという。最初はまったく理解できなかったそうだが、少しずつ気になるキーワードが見つかり始め、プラトンやアリストテレスに興味を持つようになっていく。
「古代哲学に触れて、ギリシャ哲学の思想がキリスト教に影響を与えていること、そしてそれが現代社会にも一定の影響を与え続けていることが分かってきた時に、初めて面白さを感じたのです。哲学と宗教は対立するものではなく、むしろ切っても切れない関係にあり、影響し合いながら発展してきたのだと気付いたことが、今の研究の起点になっています。」
特定の哲学者や思想・宗教を掘り下げる、時代や地域に特化するなど、さまざまな研究手法があるが、山田先生が興味を持っているのは、哲学と宗教の歴史的な展開だ。それがいかに関係し合い、次代に影響を与えていったのか、歴史的な視点で相互関係を読み解いていくものである。
哲学も宗教も、大きく言えば人が生きていく上で心のよりどころになるものである。日本人は日頃、他国の人々に比べて宗教を重んじていないように思いがちだが、山田先生は「宗教は我々の生活に深く根づいている」と語る。
「例えば、道端にある地蔵を、自然と『お地蔵さん』と呼ぶのは、無意識に尊いものだと思っていることの現れです。お守りを手にするのも、意味がなければしないことです。とはいえお参りをする人に質問してみても『宗教を信じている』と答える人ばかりではありません。これも、とても興味深いことです。」
山田先生にとって「神とは何か」「信じるとはどういうことか」という疑問は、今も大きなテーマだという。
「哲学や宗教とは、定義や教義ががっちりと決まっていて、そこからはみ出てはいけないものだというイメージを持っている方が多いかもしれません。ですが、実際はある概念一つとっても、様々な時代や地域の人々の長い解釈の歴史があり、現代もなお新しい哲学の概念や宗教観が生まれ続けているのです。」
高校までに習う哲学は、どうしても試験のために固有名詞や定義を暗記する段階で終わってしまうが、実際は今も生きて変化し続けている学問であり、とりわけ人間の多様性を感じられるところに面白さがあるのだ。
「私が研究で主に扱っているのは、紀元前5世紀から紀元後5世紀の思想家たちです。今から1500年以上も昔の人々であるにも関わらず、彼らの言葉にはっとしたり、共感したりすることができるのは。非常に興味深いことですし、純粋に楽しいと感じます。」
近年はグローバル化とともに、キリスト教やイスラム教など、世界的に人口の多い宗教についての理解が社会で働く上でも無視できないファクターになってきている。そうした観点から、山田先生の授業を選択する学生も増えているそうだ。
「授業では、まず『知らない』ということに気付いてもらうことを重視したいと思っています。『知らない』ということは『知ろう』とするための第一歩です。初めて学ぶ事柄はもちろん、普段あたりまえと思っていることも、それが何であるのか、あらためて聞かれると戸惑うことがよくあります。人間とは何か、信じるとは何か、これらは最も古い問いであると同時に、最も身近な問いであり、私たちの誰もそれを避けて通ることはできません。学生時代にいろいろな経験をし、さまざまな人と接しながら、自分自身を含め、人間を深く見つめていってほしいと思います。」