題名:
「フランス女性映画監督が打ち破ったタブー ―アニエス・ヴァルダAgnès Varda「歌う女・歌わない女」L'une chante, l'autre pas を中心に」
村上 綾

要旨:
本論は、女性を取り巻く環境が大きく変化した1970年代のフランスの女性監督映画に焦点をあて、当時のフェミニズム運動の影響を強く受けた映画や、従来の映画作品とは異なる主張・テーマを持った映画制作を考察した。特に、フランス女性映画監督の先駆者アニエス・ヴァルダAgnès Vardaの代表的映画作品の一つ「歌う女・歌わない女」L'ne chante, l'autre pas (1976)を取り上げ、同時代のフランスの文化的背景および社会背景、映画作品内の女性像の分析、タブーの打破の詳細な考察を行い、ヴァルダと彼女の作品の重要性を読み解こうとしたものである。

第一章では、1960, 70年代のフランスの男性・女性監督の映画作品の分析から、映画に描かれる女性像を考察した。この過程で、まずヌーヴェル・ヴァーグの男性監督の映画作品において、「ファム・ファタル」等従来から描かれるステレオタイプ化した女性像の継続を明らかにした。次に、1960, 70年代の女性監督の映画作品において、従来の女性像にとらわれず、現実の女性を反映した新しい女性像の始まりを明らかにした。

第二章においては、まずフランスの映画界におけるヴァルダの重要性を掴み、続いて彼女の映画「歌う女・歌わない女」と当時の女性解放運動MLFとの関連性を示唆した。その社会的背景を踏まえつつ、ヴァルダが作品内で打破したタブーとして、「新しい女性像」及び「性の表現」を読み解いた。この考察から、ヴァルダが映画作品において単に1人の女性を描くのではなく、まったく異なる人生を送る2人の女性、ポリーヌとシュザンヌを描くことによって女性の両面を描き出したことを明らかにした。

続く第三章では、「歌う女・歌わない女」に関する映画公開当時の新聞・雑誌の記事分析から、カトリック国家のフランスではタブー視される中絶を描いていた作品であったにもかかわらず、多くの批評が作品を高く評価していたことを掴んだ。同時に、現実に近い女性像が描かれてこなかった映画界において、ヴァルダの作品が映画表現の進展に寄与したことを明らかにした。

以上の考察から、ヴァルダが作品において勇敢にタブーへ挑戦したことによって、彼女の映画作品が2人の女性の人生と、「中絶」と「出産」という性の二面性の表現により、枠にとらわれない多様な生き方の提示し、同時にすべての女性が幸せを掴むことが可能であるというメッセージを主張することが可能であったと指摘した。

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