聖心女子大学の奥行きを知る
研究者として横顔をご紹介するとともに、研究の意義や楽しさを語ってもらいました。聖心女子大学の魅力をより深く知るために役立てていただきたいと願っています。
研究テーマ | : | 近世から近現代にわたり、日本の授業が何を目指し、どのような課題を担い、どのような達成を果たしてきたのかを中心に研究を行っています。そのなかでも、大正デモクラシーの時期に展開された「大正自由教育」を主な対象に取り上げてきました。 |
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著書 | : | 「信州自由教育 ―その希求の諸相と継承すべき価値―」(単著) 『信濃教育』1500号 「学園史の編纂」(単著) 『成蹊学園100年史年報』第1号 「澤柳政太郎 ―文部官僚から国際教育家への軌跡―」(単著) 『成城教育』第128号 『信州総合学習の源流』(共著) 『聖心女子大学1916〜1948〜1998』(共著) 『教師のライフコース』(共著) 『民俗学と学校教育』(共著) 『高齢化社会における健康と教育』(共著) 『長野県教育史 第3巻』『長野県教育史 第4巻』(共著)ほか |
『うた魂♪』
監督:田中誠
販売元:Nikkatsu dvd
高校の合唱部に所属する女子高生が、いろいろな軋轢やトラブルを乗り越えて成長していく青春物語です。心をひとつにしてハーモニーをつくり出していく様子が感動的に描かれ、目標に向かって全力で取り組む姿勢に共感が持てます。
『少女たちの羅針盤』
監督:長崎俊一
販売元:TCエンタテインメント株式会社
女子高生4人で結成した劇団“羅針盤”が劇的に成長を遂げていくわけですが、そのなかで殺人事件も出てくる、非常に怖いミステリーです。家庭的に問題を抱えている仲間をフォローしながら、力を合わせて演劇をつくっていく過程がこの映画の醍醐味です。
「想像力を働かせ、資料やインタビューから歴史のリアルな姿が浮かび上がる過程こそ研究の醍醐味」と語る北村先生。そうした手法による克明な記録が数多く残されている。
「人間とは何か。特に人間の価値意識や生き方が変わっていくというのは、どういうことか」
そんなテーマが、教育学を研究する原点にあったと言われる北村和夫先生。その先生が、これまで最も力を入れて研究してきたのが、学校教育における“授業”だ。
「教育を一つのアクションと考えた場合、一番重要なのは授業だと思うのです。だからこそ授業の内実に迫りたいという思いが根本にあります。なかでも私が取り上げてきた大正デモクラシーの時代は、国が命じて授業をやらせたものではなく、若い野心的な教師や芸術家、学者たちが集まって個性や創造力を追求しながら『大正自由教育』という独自の授業を創りだしました。
このとき生まれた試みのなかで、現在の教育改革の原点とも言える重要なテーマがいくつも見られます。例えば、自らの頭で考え、調べ、自らの言葉で表現しながら生涯にわたって学んでいく試み。そしてそこに学ぶ喜びや学ぶ方法を見つけていく“自立した学び”は、まさに日本で初めて生まれた生涯学習の考え方そのものといえます」
またこの時代には、「総合的な学習」につながる授業も展開されている。特に長野師範学校付属小学校(現信州大学教育学部付属長野小)で行われた研究学級の事例は、先生自身が卒業生のインタビューなどを通して明らかにしていったものだ。
「基本的には教科書を使わず全て体験から学んでいます。例えば鶏をみんなで飼育するテーマでは、鶏小屋の設計に始まり、餌の種類や栄養価、価格を徹底的に調査し、さらに米やふすま、菜っ葉の類は栽培も行っています。また、産んだ卵の重さ、温度、孵化までの時間も調べ、その学習範囲は鳥類と哺乳類の違い、鶏を扱った文学作品や科学的読み物にも広がっています。これは小学校4年生による1年間の取り組みですが、共通の関心に基づいているため非常に熱心で学習意欲が高まっていたのが分かります」
北村先生の研究では、生徒会自治活動や臨海・林間学校の原型もこの時期に見られたことが分かっているが、そのベースにあるのは信頼ある教師の存在だ。
「学びの主体は子供にあって、教師は子供をしっかりと受けとめ、刺激を与えながらその才能を伸ばしていく存在でした。こうした関係から生まれた信頼が根本にあったことが素晴らしいのです」
教師と子供の関係といえば現代に直結するテーマだが、もちろん北村先生の研究は現代と切り離されているわけではない。
「過去を振り返るだけではなく、現代において何が問われているかという問題意識なくして、歴史から意味あるものを見出すことはできません。
『生きる力』が盛んに言われていますが、私はそれより『善く生きる力』こそ大事だと思っています。単に自分のためにたくましく生きるだけではなく、他の人と共に、とりわけ助けを必要としている人たちのために生きていく。そして直接役に立つ立たないとは関係なく精神的に豊かに、品位・品格をもって生きていくことが大切だと考えています」
そして北村先生は、この「善く生きる力」を実践できる存在として、最大公約数で教育を捉えざるを得ない公立・国立の学校ではなく、私立の学校に可能性を見出している。実際に「大正自由教育」も私立の学校の役割が大きかったという。もちろん、先生のこの考え方は自ら教鞭をとる聖心女子大学の教育にもつながる。
「聖心スピリットと言う場合、まず一つ目は『知性』です。それは、自立した思考を持って幅広くものを考え、自分の言葉で発信できる。教養即ち偏見からの自由に裏づけられていてほしい。次に来るのは『愛』。何かを行う場合に全てその根底には愛があってほしい。愛に根ざした生き方といえます。そして聖心の大きな特徴が『実践力』。大切だと思えば即行動できる。他の人が立たなくても、まず最初に灯火を掲げるべきであるとする考え方。この三者が揃った生き方には自ずから品位や品格がにじみ出てくると思う。これが聖心スピリットだと考えています」
「いろんな学問分野を総合応用して、この世に役立つ学問として教育学は存在する」と語る北村先生。この聖心女子大学で先生は、これまで培われてきた教育観を踏まえ、まさに「善く生きる力」を実現するための教育システムを目指した取り組みにも挑み続けている。