聖心女子大学の奥行きを知る
研究者として横顔をご紹介するとともに、研究の意義や楽しさを語ってもらいました。聖心女子大学の魅力をより深く知るために役立てていただきたいと願っています。
研究テーマ | : | 初等及び中等美術教育学。ナショナル・カリキュラムの内容と領域の比較研究。美術教育のカリキュラムの調査と開発。図画工作科及び美術科の教科書研究。 |
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著書 | : | 『新版造形教育実践全集』(日本教育図書センター) 『新訂図画工作・美術教育研究』(教育出版) |
フェデリコ・フェリーニ監督の映画『道』
大学時代に池袋の文芸座で観たイタリア映画。古いモノクロ映画でしたが、それまでの人生で一番泣けた作品です。登場人物曰く「路傍の石一つにも、存在理由がある。」このことは、小さな子どもたちが、様々な対象に美や魅力を感じている眼差しと同じです。大学時代には是非、こういう心揺さぶられる鑑賞体験をしてもらいたいですね。
子どもからもらった、おにぎりのかたちをした石に色を塗ったもの。
水島先生はその発想の豊かさに驚いたという
学生時代から、ミクスドメディア(複数の表現技法を用いる絵画や立体アートなど)のアーティストとしても活動していた水島尚喜先生。子供たちの絵に興味を持つきっかけもその頃にあったと振り返る。
「学生時代、アルバイトであるデッサン教室の先生をしていた時、3〜4歳の子供たちが描く絵を見て、どうしてこんなに美しい線、美しい色が描けるのだろうか、とすごい刺激を受けまして。自分で絵を描いていくより、大学院で美術教育の研究に取り組む道を選んだんです」
大学院修了後は小学校の教員を6年間つとめ、その後、大学教員として教育・研究の世界へ。教育の現場を知っていることはもちろんだが、もう一つ、アーティストの現場を体験していることも、水島先生のキャリアを語る上で欠かせない要素の一つだ。
「幼稚園や小学校の頃、子供たちが好きな教科と言えば体育か図画工作か音楽か。とにかく体を動かしたり、色を塗ったり、音を出したり、自由に表現する遊びが大好きなんです。でも中学・高校と進むうちに一部の才能ある人だけが表現者になり、残りの大多数はスポーツや芸術から離れていってしまう。そんな状況を少しでも変えるには、美術教育のあり方から見直す必要があると考えたわけです。もちろん、自分が表現者だったことも他の研究者にはない持ち味だと思っています」
学生の作品
学生の作品
学生の作品
学生の作品
学生の作品
水島先生は現在、教員志望の学生を中心に実践学としての授業設計やカリキュラム論を教えながら、自らのライフワークとも言える造形美術教育学の研究を進め、その成果を小学校や中学校における美術の学習指導要領策定や美術の教科書づくりにフィードバックしている。
「従来の美術教育学は幅広い“造形”的側面を視野に入れていませんでした。本来、“ものを形づくること”の重要性をふまえた取り組みのはずです。たんなるお絵描き指導の学問ではありません。とりわけ小学校の『図画工作』や幼児教育における造形教育は、人格形成期に人間本来の創造性を培うものとして近年、各方面からの期待と注目が集まっています。私自身の大学教員としての目標はやはり、現場の教師を目指す学生の皆さんにしっかりとした造形美術のベースを築いてもらうことですね」
そんな水島ゼミで学生が最初に取り組むのは「造形遊び」。子供にやらせること、という意識を捨て、まず自分自身がその楽しさ、面白さを感じるところから水島先生の「ティーチャー・トレーニング」はスタートする。
「将来、教材づくりに役立つという意味もないことはありませんが、そうしたスキルは現場で自然に身につきますから。ここでは実際に体験することを重視しています。美術的な感性というのは外から得るものではなく、もともと自分の内にあるもの。それを呼び起こすための活動と言ってもいいでしょうね」
ゼミのワークルームには、まるで小学校の教室のようにさまざまな切り絵やコラージュ、造形遊びの作品が並ぶ。創り手が大学生でも、その感覚は無垢な小学生のままだ。
「ここにはゼミの学生だけではなく、小学生が作ったものも飾っていますが、どちらも素晴らしい発想とセンスを感じます。ゼミは私自身が刺激を受ける場でもあるんですよ」
水島先生が監修した図画工作の教科書
水島先生が監修した美術教育のテキスト
水島先生が監修した図画工作のビデオ教材
感性豊かで実践力のある美術教員の養成に意欲を見せる水島先生だが、もう一つ、力を尽くしているのが現場経験者ならではの教育改革だ。教科の形を定める学習指導要領の小学校、中学校の作成協力者でもある。
「小学校の美術教育、即ち図画工作は近年、子供の自由な発想を伸ばす方向で発展しています。小学校で育んだ創造力が、ややもすると中学校の“教え込む、教え込まれる”教育の中で歪められるケースもあるようです。今、大切なのは小学校と中学校の一貫した美術教育を展開することだと思っています。そのために学習指導要領に[共通事項]という項目も新設されています。」
水島先生のめざす美術教育は、それぞれに分断されがちな幼稚園、小学校、中学校、そして高校等を含めたカリキュラムの筋道の構築だ。それは恐らく、全ての教科に共通する学校教育の課題だろう。学生にとって水島ゼミは、現場教員としての基盤づくりだけでなく、大きな教育改革に参画するチャンスの場でもあるのだ。
「美術教育に関して言えば、聖心女子大学の環境は日本一だと思います。まず、ロケーションが素晴らしい。国立新美術館をはじめ、著名な美術館や歴史的な建物が徒歩圏内にあり、世界的に認められた“ホンモノ”がいつでも身近に感じられる環境は、私自身、大変なアドバンテージだと思っています。さらに、表現系の専任教員が多く、アーティストやクリエイターをめざす学生の指導もできる点は大きな魅力でしょう。もちろん、造形美術教育学をさらに深く探求したいという研究志向の学生も大歓迎です」