研究テーマの内容、研究活動
現在、我が国は超高齢化社会を迎えています。つまり、高齢者の役割が大きい社会と言えるのではないでしょうか。
そこで、私はコミュニケーションの観点から老年学を研究しています。年をとると言葉が出にくくなったり、記憶があいまいになったりするので、高齢者と話していると内容がかみあわないな、と思うことがあります。では、そうした場合にどのようにコミュニケーションをとっていくべきか。認知症やアルツハイマー病などによって、高齢者の言語にどのような影響が出て、聞き手はどうそれに対応すべきかをあきらかにすることを目指しています。
この研究は、私自身が大学院生時代に、祖母との会話に違和感を感じはじめたことが起点となっています。テープレコーダーを置き、祖母と自分、また他の家族との、日常的な会話を録りためました。これを聞き取ってテキストに書き起こし、会話の中で何が起こっているかを分析する研究です。
たとえば高齢者は、よく「あれ」という言葉を使いますが、「あれ、おいしかったわよね?」と言われたときの対応にも、聞き手それぞれのコミュニケーションスキルが表れます。「あれじゃわからないわ」と言う人もいれば、自分なりに記憶を掘り起こし「この間いただいたお菓子のこと?」と返す人もいるでしょう。後者のほうが、聞き手が高齢者と円滑なコミュニケーションを図ろうとしている姿勢が見てとれます。ただ、この研究は、聞き手の良し悪しを判断するものではありません。目的は「何がコミュニケーションの障害になっているか」を考察することにあります。早口で話しすぎていたり、質問をしすぎたりするという聞き手の行動は、しばしば問題と指摘されますが、研究は「その状況に応じて、聞き手の言動が話し手にどういう影響を与えているか」を測ります。
研究テーマの意義・面白さ
わたしの研究分野は、社会言語学(談話分析)に属します。言語はどう社会に影響を与え、また社会はどう言語に影響を与えているかを考察する学問です。研究の先例から、高齢者への接し方が見直されているのも事実です。たとえば、以前はどんな高齢者に対しても一律に耳が遠いと決めつけて大きい声で話すとか、赤ちゃんに話しかけるような口調で話すといったことがありました。しかし、これらは高齢者を思いやっているように見えて、実際は『個人』を無視した行為だという認識が広まったため、現在では少なくなっています。
いま、介護施設での研究も行っていますが、そこにはまた、家族間とは異なる枠組み(たとえば医療関係者やスタッフ、利用者)が存在するためです。
これからの日本では、さらに高齢者と接する機会が増えていきます。同じ家に住んでいなくても、だれもが街の中で、いろんな場面で高齢者と出会っています。コミュニケ―ションの観点から高齢者を理解し、共存できる社会を作っていくことに貢献できればと日々考えています。