聖心女子大学の奥行きを知る
研究者として横顔をご紹介するとともに、研究の意義や楽しさを語ってもらいました。聖心女子大学の魅力をより深く知るために役立てていただきたいと願っています。
研究テーマ | : | 適応と援助 |
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著書 | : | 『クライエント中心のカウンセリング (21世紀カウンセリング叢書)(単行本)』駿河台出版社 『悲しみを支える本―死別で遺された人を癒やすため に、あなたができること』(共著)学習研究社 『臨床心理学 心の再生と修復への援助(単行本)』(共著)河出書房新社 『人格心理学 パーソナリティと心の構造(単行本)』(共著)河出書房新社 『女子大生がカウンセリングを求めるとき 心のキャンパスガイド(単行本)』(共著)ミネルヴァ書房 『適応と援助の心理学 援助編(単行本)』(共著)培風館 『カウンセラーの仕事の実際(単行本)』(共著)培風館 |
『なごり雪』
監督:大林宣彦
販売元: パイオニアLDC
『ニライカナイからの手紙』監督:熊澤尚人
販売元: ポニーキャニオン
『八月のかりゆし』
監督:高橋巌
発売元:バップ
ひと昔前の日本の地方都市の雰囲気が感じられる大林宣彦監督の作品は、大好きです。古来からの文化が残る沖縄の島を舞台にした作品にも心惹かれます。
先生が作成した『死別の悲しみを支える』小冊子を紹介した新聞記事
出典:2003.12.15 朝日東京版
先生の著書
『クライエント中心のカウンセリング』
ビジネスマンを対象にした産業カウンセリング、学生相談、親子の教育相談など、さまざまなカウンセリングに豊富な経験をもつ佐々木正宏先生。その経験をもとに「カウンセリングにおけるセラピスト−クライエント関係」に関心を抱き、検討を行なっている。
「長年にわたって多くのクライエントに会う中で、私自身が40代になってから、クライエントに強く依存されることが増えてきました。そうした経験からも、何でも聞いてしまうのではなく、制限を明確にすること、『無条件の肯定的配慮』の大切さを改めて感じています」。無条件の肯定的配慮とは、クライエントを一人の人間として大切にするという姿勢であり、クライエントが望むことを何でもしてあげるといったことではなく、いくつもの制限を設けた中で示される姿勢である。例えば、結果が出るまで無制限に時間をかける、面接室だけでなく外でも会う、といった制限のないカウンセリングではよい成果は得られない。
時には受け入れがたいクライエントに出会うこともある。子供への虐待を繰り返しながら「他人からとやかく言われる筋合はない」などと開き直られれば、カウンセラーである前に一人の人間として怒りに駆られてしまうのもごく自然なことだろう。どうしても受容できないクライエントであれば、他のカウンセラーに交替してもらうこともできるが、クライエントの生い立ちや背景などを理解していくうちに冷静に受け止められるケースも少なくないという。
「カウンセラーは触媒の働きをするだけで、変わっていくのはクライエント自身の力。クライエントのパーソナリティーが変わり、抱えている問題が解消して、最終的にはカウンセリングに来る必要がなくなることが目標です」
先生の著書
『悲しみを支える本―死別で遺された人を癒やすために、あなたができること』
もうひとつの主要テーマである「別れの研究」では、配偶者との死別を経験した人の悲嘆や適応のプロセス、サポートのあり方について検討している。これは以前、放送大学で人格心理学の講座を担当した時、長期間にわたって調査を続けている河合千恵子先生をゲスト講師に招いたことをきっかけに始めた共同研究である。「配偶者の死別直後、8ヶ月目、25ヶ月目、16年後など一定期間ごとに面接調査し、抑うつ状態や孤独感などの感情の変化、健康状態との相関関係を考察しています。従来の死別の研究では、うつは重視されてきましたが、むしろ孤独感が重要であることがわかりました。またそれまでの研究は、死別後の孤独感はあまり変化しないとされてきました。たしかに平均値は変わりませんが、死別後2年目くらいに孤独感が急に増した人、逆に減少した人、あるいは変わらない人と、個人差があります。配偶者の死を乗り越え、単に長生きするのではなく、幸福感を持って健康的に年を重ねる『サクセスフルエイジング』のためには、孤独感が大きなポイントになってきます」
配偶者の死を受け入れる過程では、周囲のサポートも重要だ。特に自立心が強く弱音を吐けない性格の人や、話を聞いてくれる人が回りにいない人、泣くなど悲嘆を表に出しにくい男性などには、自然に感情を発露できるように促す援助が必要になる。ただしその際、急かすような言動はかえって逆効果を招きかねない。
「死別後、人から言われた嫌な言葉、有難い言葉を聞いてみると、『お寂しいでしょう』という言葉は不快に思う人が多い。また、信心が足りないなどと言って宗教的な勧誘などをされたり、自分が諦めきれていないうちに、現実を受け入れるように勧められると非常に傷つきます。逆に『いつでも電話して』といった素朴な言葉や、しばしば声をかけてくれるが話を聞いてくれるだけというように、急かすことなく見守ってくれる態度や言葉への評価が高くなっています」
先生の著書
『臨床心理学 心の再生と修復への援助』
映画が好きで、「学生時代は朝起きると、大学に行こうか映画館に行こうか迷った末、1日中映画館で過したことも」という佐々木先生。研究室の棚にずらっと並んだ映画のDVDは、ゼミでの教材としても活用されている。戦争による離別が招いた夫婦の悲劇を描くイタリア映画の名作『ひまわり』、PTSD(外傷後ストレス障害)のフラッシュバック・シーンが描かれた『ランボー』、ウィノナ・ライダーやアンジェリーナ・ジョリーら人気女優の共演で、精神病院で暮らす若い女性たちを描いた『17歳のカルテ』などの作品から、臨床心理学を学ぶ学生たちはさまざまな示唆を得ているようだ。
佐々木先生のゼミには、臨床心理士を目指している学生も多い。本格的なカウンセリング実習は学部の段階では行なわないが、「学生たちの刺激になる体験をできるだけ提示したい」と、ゼミではプレイルームでの箱庭療法体験や面接室見学などを取り入れている。学生の指導にあたっては個人の興味を尊重し、ゼミ生の卒論テーマも「完全主義的性格」「結婚・恋愛観」「失恋経験」「摂食障害」など、多岐にわたる。
「臨床心理学は、長い生活史を背負っている人間を、細切れでなく全体としてとらえていく学問。臨床心理学における人間を理解するための諸方法を学ぶのとともに、自分のセンスを磨く努力を重ねてほしいと思います」