聖心女子大学の奥行きを知る
研究者として横顔をご紹介するとともに、研究の意義や楽しさを語ってもらいました。聖心女子大学の魅力をより深く知るために役立てていただきたいと願っています。
著書 | : | 『藩閥政府と立憲政治』(単著)吉川弘文館、『伊藤博文の情報戦略』(単著)中央公論新社、『日本の近代 メディアと権力』(単著)中央公論新社、『日本の歴史 明治人の力量』(単著)講談社、『図説明治の群像296』(共著)学習研究社、『歴史と素材』(共著)吉川弘文館、『明治時代館』(共編著)小学館、『メディアの中の「帝国」』(共著)岩波書店、『山県有朋と近代日本』(共著)吉川弘文館 |
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『江戸城御庭番―徳川将軍の耳と目』
著者:深井雅海
出版社:中央公論社
本学教授であり、江戸幕府政治史を専門とされる深井雅海先生のご著書です。御庭番を実証的に書いた唯一の本といえるでしょう。時代劇に登場する御庭番は、忍者のようにデフォルメして描写されがちです。情報収集活動をしていたことは確かですが、実際には将軍直属の“役人”でした。御庭番の素顔を楽しみながら読んでみてください。
先生の著作『明治時代館』
(共編著)小学館
佐々木隆先生は近現代の政治史を専門としているが、中でも“情報”に着眼して研究を続けてきた点がユニークだ。情報とはどのように伝わるのか、どのような意図で伝えられてきたか。新聞などのメディアと、個人的な書簡にもそれぞれ異なる性質がある。近現代、電話の発達していない時代では、とりわけ手紙の果たす役割が大きかったという。直接の面談ができない場合には、一日に何通もの手紙が送られることも……「今、みなさんが電子メールを送りあうようなものですね」と、佐々木先生は語る。
先生の著作『明治人の力量 日本の歴史21』
(講談社学術文庫)講談社
「3年生のゼミでは毎年、伊藤博文宛の手紙の研究を行っています。政治家同士のやりとりはおおむね2種類です。交渉ごとか、あるいは部下が情報を集めてきて上司に報告するケースか。いずれにしても、政治に携わる人々の生の場面がそのまま収録されています」
声に出しての朗読を行い、内容を深く理解できているかを確認する。そして、その手紙の用件、意図を読み解いていく。
「特に、駆け引きしたり交渉するなどの用件の場合は、自分の意図が相手にはっきりと伝わらなくては意味がないので、かなり赤裸々な事情が書かれていることが多いのです。また、手紙は、人間の生の感情が反映されやすいという性質があります。ちょっとした言葉づかいから、その人の人間性が感じられるのも興味深いところです」
一通の手紙から何がわかるかを分析し、時間軸を前後に広げて読解を深める経験を経て、4年では日記を扱っていく。一通を集中的に読む手紙に対し、日記はひと月分を読みこみ、その中からテーマを見つけ出しスポットを当てていく。前者が微分なら後者は積分だ。
「よくテキストに使うものに、二・二六事件の黒幕と噂される眞崎甚三郎陸軍大佐の日記があります。克明に記録されていることに加え、感情の動きもよく書かれているためです。手紙・日記・公文書などの一次史料にあたることで複雑な事情がわかる。こうした、みなさんがよく知っている事件に関連する史料を読むと、高校までに習う教科書ではかなり表面的なことしか伝えられていないことがわかり、読めば読むほどおもしろくなります」
佐々木先生が勧める「一行読み」という方法は、とにかく一行ごとに深く解析して読んでいくものだ。ひとつの文章にこめられた意図を掘り下げ、推論をめぐらし、仮説を考える。それを重ねていくうちに、思いがけない解釈が見えてくることがあるそうだ。
授業で使用する資料。「新・お絹ちゃんの日常―東京・明治24年―」。漫画も本文もすべて佐々木先生によるもの。それぞれのキャラクターにファンがいる
「新・お絹ちゃんの日常―東京・明治24年―」。明治の女性の髪型を漫画と文章で分かりやすく解説している
「新・お絹ちゃんの日常―東京・明治24年―」。明治の犬の名前についての短編漫画
「近現代の日記や書簡史料は、最近かなり書籍化が進んできましたが、まだ活字になっていないものがたくさんあります。そうした一次史料をあたるため、国会図書館や歴史資料館に足を運び、所蔵されている原本を手で書き写すことを私は長年やっているわけです」
その場に行ってみるまで何が書かれているかわからないが、それだけに貴重なことが書かれた史料に出会ったときの喜びはひとしおだ。歴史的事件の新事実に関わる記述や、自身が予想していたことを実証する一文を発見する。こうした地道な作業を重ね、数々の論文や著作を発表してきた。
「近現代史は、研究の歴史が浅いので、知られざる重要な事実がまだ手つかずでたくさん残っているといえます。学生のみなさんによく言っているのは、近現代史は未踏の山脈だということです。山登りで言えば未踏峰、無名峰がいくらでもあります。私のゼミでも、卒業論文が学術雑誌に掲載された方がこれまでに10人ほどいます。ぜひ、新しい発見をする楽しみを味わってほしいと思います」