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日本語日本文学科の学生らが毎年恒例の文学散歩で横浜の大佛次郎記念館などを見学
日本語日本文学科では、毎年秋の休日に文学散歩を開催しています。教員、副手、学生が参加し、文学作品や作家にゆかりのある地、日本文化を学べる施設などを巡ります。これまで、鎌倉、早稲田、上野、乃木坂、浅草などを訪れました。この文学散歩の企画や進行などは、有志の学生による日文委員が中心となって行っています。日文委員とはクラス委員のような係で、春の新入生歓迎会なども企画し、学科を楽しく盛り上げてくれる存在です。
さて、2024年度の文学散歩は11月3日に開催され、横浜の元町周辺を散策しました。今回巡った場所は、港の見える丘公園、大佛次郎記念館、神奈川近代文学館、山下公園です。
最初の集合場所となった港の見える丘公園は、横浜港を見下ろす小高い丘にある公園で、横浜ベイブリッジを望む絶好のビューポイントです。ここではまず教員から、大佛次郎、そして安部公房について解説がありました。
大佛次郎というのはペンネームで、本名は野尻清彦です。少し不思議なペンネームは鎌倉市長谷の大仏の裏手に住んでいたことに由来します。明治10年代の横浜を描いた『霧笛』、大衆小説の代表的作品である『鞍馬天狗』(長編・短編計47作)をはじめ、数多くの作品を残しました。第2回大河ドラマ「赤穂浪士」、そして第5回大河ドラマ「三姉妹」の原作者でもあります。大の猫好きとしても知られ、猫を「生涯の伴侶」と呼びました。
安部公房は今年生誕100年を迎えた、現代日本文学を代表する作家です。カフカに影響を受け、『棒になった男』や『燃え尽きた地図』、『箱男』など、不条理を描いた作品が多くあります。代表作である『砂の女』、『他人の顔』は映画化されたほか、自ら劇団を作り演劇の世界でも表現活動を行いました。よしもとばななや村上春樹よりも前に各国の言葉に翻訳され、その作品は世界中で読まれてきました。
学生は教員から解説を受けたのち、2グループに分かれて見学に向かいました。大佛次郎記念館では、テーマ展示「鞍馬天狗誕生-ヒーロー、100年の歩み-」が開催されており、先ほどの解説を思い起こしながら展示品を楽しむことが出来ました。猫好きの大佛次郎にちなみ、館内の照明の上にはポーズの異なる何匹もの猫の像があり、その愛らしさに癒された人も多かったのではないでしょうか。
神奈川近代文学館では、特別展「安部公房-21世紀文学の基軸」が開催されています。展示品の充実ぶりに圧倒されつつ、限られた時間の中で存分に安部公房について知ることができました。会場入口にはワークシートが置いてあり、解答を探しながら巡ることでより楽しめたように感じます。
続いて向かった山下公園では、横浜に縁のある2人の外国人について、教員が解説を行いました。1人目はアメリカ人宣教師・医師のジェームス・カーティス・ヘップバーンです。彼は日本で初めての和英辞典『和英語林集成』を編纂しました。日本語表記をラテン文字表記に転写する際の規則(いわゆるローマ字)の表記法は、「ヘボン式ローマ字」として現代まで伝わっています。ヘップバーンという名は、当時の日本人には「ヘボン」と聞こえたことから、ヘップバーンは日本人に対し、自ら「ヘボン」と名乗っていたそうです。
2人目はイギリス人のヘンリー・ジェイムズ・ブラックです。イギリス領オーストラリアで生まれ、来日後、日本で初めての外国人出身のタレント(落語家)になり、のちに快楽亭ブラックを名乗りました。日本で最初にレコード盤の録音をした人でもあります。音源を聞くと音質は不鮮明ながら、江戸弁(下町の日本語)を話していたことが分かるそうです。いずれの話も非常に興味深く、学生は熱心に聞き入っていました。
最後に徒歩で桜木町駅方面に向かい、食事会で今回の文学散歩は幕を閉じます。食事会は皆が楽しみにしているひとときで、この会を通じて教員と学生の親睦をより深めることができました。
文学散歩では、教員とともに歩きながら他愛もない会話だけでなく、教員が携わる研究分野についての詳しい解説を聞いたり、卒論のゼミやテーマについても相談することができ、学生にとっても有意義な時間となったのではないでしょうか。教員と学生の双方が、大学で見るのとはまた違った互いの一面を知ることができたのではないでしょうか。
次回の文学散歩も、今から待ち遠しいです。
(日本語日本文学科研究室)