研究テーマの内容、研究活動
2005年に聖心女子大学に赴任するまでは、文部科学省の国立教育政策研究所に勤めていました。大学院博士課程の中途で最初に就職した文部省(当時)では外国調査の仕事を担当するなかで、ベルリンの壁崩壊(1989年)やソ連邦消滅(1991年)に伴う教育の世界における東西の壁の崩壊の影響を間近に視ました。その後、分裂する旧ソ連地域に対し、地域統合を目指す欧州連合(EU)の生涯学習政策に関心をもったことが、現在に至る研究テーマにつながっています。
小学校2,3年生の頃にアメリカのウィスコンシン州で多国籍の子どもが通う小学校に通った経験から、もともと諸外国の教育の相違と類似点に対し興味を持っていましたが、教育学の世界に進むきっかけとなったのは、大学で比較教育学のゼミに入ったことです。大学では外国語学部でロシア語を専攻していたこともあり、当初は旧ソ連地域研究の一環として教育制度や教育課程・教科書の内容分析に興味を持ちましたが、日本の教育改善や世界の平和構築に役立てることのできる学問としての比較教育学に魅力を感じ、大学院に進学し研究者への道に進みました。文部省での外国調査や国立教育政策研究所における生涯学習政策の国際比較研究を契機に、ユネスコやOECDの国際比較研究プロジェクトにも参加させていただき、諸外国の研究者とのネットワークを広げ、国際会議や学会での英語による発表の機会も多くなりました。
2022年のサバティカルの際にはスウェーデン・ヨンショーピン大学全国生涯学習研究センター(ENCELL)に約5ヶ月間客員研究員として滞在しました。コロナによるパンデミックが一段落し、国境を超えた人々の交流が再開できるようになった時期でしたが、ロシア軍によるウクライナへの侵攻により、スウェーデンもウクライナからの避難民を多数受け入れていましたが、これまでの紛争地域からの難民受入の経験を活かし教育機関や市民団体が子どもの心のケアなど手厚い対応を行なっていることが印象的でした。
研究テーマの意義・面白さ
比較教育学の研究者は、特定の国や地域を専門として文献研究や現地調査によって当該国・地域の教育事情を一人で深堀することが多いですが、私は複数の国や地域の比較研究に関わることが多く、外国の研究者も含めた共同研究に面白さを感じています。異なる背景をもつ研究者との意見交換には思わぬ発見や気づきがあります。特にUNESCO生涯学習研究所やASEM(アジア・ヨーロッパ会合)生涯学習ハブの国際比較研究プロジェクトでは様々な国の人たちとオンラインや対面で会って各国の事例を紹介し合ったり、比較研究の枠組みにもとづいてディスカッションをしたりする機会があります。現代はAiの発展により、多言語の文献や情報を瞬時に収集できるようになりましたが、それだからこそ人と人とのつながりの中で得られる知識が益々貴重なものになっていると感じます。
日本学術振興会の科学研究費など外部資金による研究費を得て実施する北欧や中東欧・旧ソ連地域での教育・生涯学習事情に関する現地調査では、教育行政機関や学校・大学、教育系企業、社会教育団体等で関係者に情報収集のためのインタビューを行うことが多いです。インタビューにおいては、研究目的に応じた適切な質問をすることは言うまでもありませんが、相手に対して心を開き打ち解けた雰囲気をつくること、臨床心理学で言うところの“ラポール”がとても大切です。教育学科では、教育学専攻3年次のMyプロジェクト(自主的研究プロジェクト)や教育学演習、卒業論文研究で質的研究としてフィールドワークを行う学生が多いですが、どの言語でインタビューをするにしても必要なマナーとスキルを、まずは身につけてほしいと思っています。